デジタルトランスフォーメーション研究所

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日本の小売業界がとるべきDX戦略のまとめ

本コンテンツは、DX実践道場の以下の3講座のエッセンスの一部を要約したものです。詳細はDX実践道場をご参照ください。

  • B2CにおけるDX戦略 ー小売流通業やD2C事例から学ぶ- (講師:荒瀬光宏)

  • 米国リテール業界DX最新事情 概要編(講師:金澤一央)

  • 米国リテール業界DX最新事情 事例編(講師:金澤一央)


小売業界のDX

スーパーマーケット、百貨店、専門店、各種サービスなど、消費者に向けて価値を提供している小売業界様においては、コロナが明けた環境の中で、どのような方向のDX戦略を展開するべきか検討中の皆様も多いかもしれません。しかし、日本は世界に例を見ない高齢化社会であるため、従来のアナログネイティブ(アナログなサービス提供に慣れ親しんでいる世代)が多く、小売業界の進化は、現時点では一定範囲内にとどまっています。しかし、世界に目を向けると、小売業界ほどDXが進んでいる業界も珍しいといってよいほど、様々な動きが生じています。結果的に、私たち日本の小売業界は、これらの世界の先進事例から学び、これから日本の小売業界で発生する変化、取り組むべきテーマについて考察することができます

これらの世界の動向をしっかり踏まえてDX戦略を立案すれば、日本市場はブルーオーシャンにすらなり得ます。まずはグローバルな小売業界のDXの経緯と最新状況を学びましょう。

ステージ① amazonに始まった小売業界のディスラプション

小売業界のディスラプション(破壊的再編)を仕掛けたのは、amazonです。オンラインでの商品購入が一般的になる世界を予見し、世界最大の書店を立上げ、データを活用したパーソナライズ(個人毎の最適化)、効率的な物流網を立ち上げました。これらのプラットフォームを最大限に活用し、あらゆる商品に取り扱いを広げていき、小売業の王者に君臨したことは皆様もご存じの通りです。

amazonに始まった小売業界のディスラプション

ステージ② amazonに対抗したウォルマート

amazonがEC事業を成功させるにつれ、これまで小売業の王者であったウォルマートは、破滅への道を歩むしかないと多くのアナリストに酷評されました。全米に5000店舗を持っていたがゆえに、固定費が大きく、amazonとの競争に打ち勝つことは不可能と思われたためです。

amazonに対抗したウォルマート

しかし、ウォルマートはがけっぷちから大逆転を仕掛けます。まずは、Jet.comというamazonに対抗していたスタートアップを買収し、EC事業に本格的に乗り出します。ここで重要なのは、買収したJet.comをウォルマートの企業文化に染めるのではなく、むしろJet.comの企業文化を取り込んで、ウォルマート自身を徹底変革したことです。その結果、ウォルマートは変革に高速に対応できるアジャイルな組織文化を身に着け、アナリストにお荷物と考えられていた全米の店舗を最大限に活用し、リアルとデジタルを融合した顧客の購買体験の最適化を行いました。ここで実現された購買体験の最適化は、BOPIS(Buy Online Pick up In Store)と呼ばれ、定番商品はECサイトで注文すれば店舗でパッキングされ、いつでも引き取れる状態になるものでした。広大な米国では、デリバリーのスピードより、消費者自身が店舗に取りに行く方がずっと早いという点に目を付けた戦略でした。また、店舗を訪れることにより、生鮮食料品のように手に取って商品を選びたいものはその場で選べる「補充購買」というamazonには実現できなかった体験を顧客に提供しました。これにより、定番商品はamazonで生鮮食料品はウォルマートでと、使い分けるメリットがなくなったため、多くの顧客がウォルマートで定番商品も購入するという顧客体験を選びました。このBOPISは、特にコロナ禍において店舗滞在時間を最短化したい市民に歓迎されました。

これらの取組みが市民に受け入れられた結果、ウォルマートは今でも、過去最高売り上げを更新し続けています。

ウォルマートの実現したBOPIS

このウォルマートの着眼点は、購買支援や販売という観点でamazonが弱かった未充足部分に着目し、まさに自社が得意としている店舗の数や立地を活用した戦略だったと言えます。(下図参照)

ウォルマートの着眼点

このようにデジタルで設計した顧客体験にリアルな接点や商品を包み込むことを、OMO(Online Merges Offline)と呼びます。BOPISは購買体験のOMOとも呼べるでしょう。

ステージ③ 消費体験に踏み込むD2Cの急成長

購買体験のBOPISをウォルマートが完成させたことで、小売業界のDXは一段落することはありませんでした。消費体験までをOMOするD2C(Direct to Consumer)と呼ばれる業態が現れたのです。D2Cとは特定の商品領域に対して専門性の高いブランドです。自ら企画、生産した商品を小売店をはさまず、消費者にダイレクトに提供し、その消費体験をも、様々な接点で支援する企業です。

D2C企業と伝統的ブランドの比較

D2C企業という定義に当てはまるかどうかは人に寄り分類方法に差異はありますが、ここで言うD2Cのコンセプトに当てはまる企業としては、NIKE(ランニングシューズ等、米国)、Lululemon(ヨガウェアなど、カナダ)、Casper(マットレス、米国)などがあります。また、自身で製造していないものの、SEPHORA(化粧品小売、フランス)なども、コンセプトが近いと思います。

これらのブランドでは、購買体験の最適化であるBOPISはもちろんのこと、消費体験をサポートし、さらにそのための商品開発、生産もカバーしているため、当該専門分野においては強力な価値を顧客に提供しています。接点としても、WEBブラウザ、直営店舗、スマホアプリ、製品自体など、様々なものをネットワークし、データを活用して利用者にとっての価値を最大化しています。

D2C企業の着眼点

例として、NIKEの場合は、ランニングシューズやウェアと言った商品を売るだけでなく、ランニングのペースを測定してリアルタイムにイヤホンでアドバイスしてくれる伴走コーチをアプリで提供する運動支援や、自身の目標を設定して達成度を見える化する目標管理、同じ種目のプレイヤーとの繋がりを形成するコミュニティ、自身の自己実現を実感できる成績のシェアやトロフィー獲得などのゲーミフィケーション、そして当然のように購買体験を最適化するBOPISを提供しています。

NIKEの提供価値

このNIKEのBOPISはスマホアプリを軸に、EC体験のみならず、店内での購買を最大限に支援するよう設計されています。ここで重要なのは、店舗や店員の業績を従来の店舗内売上に置かない点です。つまり、店舗内売上という部分最適ではなく、顧客にとっての購買体験、消費体験が最大化されるよう設計されているため、店舗や店員はそこでの売り上げを最大化するのではなく、帰宅後に注文してもよいし、アプリで決済してもよいという、リアルとデジタルの選択肢を顧客に柔軟に選んでもらえるようになっています。その設計に基づいて店員の行動も従来とまったく異なるものになっています。つまり店舗内に在庫のある商品を無理に顧客に押し付けたりせず、その顧客にとって最適な提案をすべての店舗やオンラインの中から提示できるように行動します。当然、店員の評価制度もまったく新しいものとなっています。

NIKEの実現したメッシュジャーニー

このようにリアルとデジタルですべての機能が用意され、常に行ったり来たりできる設計になっていることをメッシュジャーニーと呼びます。このメッシュジャーニーというのは、上記の図のようにすべての要素間でメッシュのように行ったり来たりできることを指します。(メッシュジャーとは、DX実践道場の講師でもあり、DX経営図鑑の著者である金澤一央さんが命名したものです。)

ステージ③ 消費体験に踏み込むD2Cの急成長/国内事例

これに対して、日本国内のD2C事例では、デジタルに極力誘導するデジタル主体ジャーニーや、リアル店舗に極力誘導するリアル主体ジャーニーといったものも存在します。これらについては、DX実践道場の中で事例を含めてご紹介します。

国内事例を1つご紹介しますと、Fabric Tokyo(オーダーメイドスーツ、日本)があります。リアルのほうが向いている採寸、生地選びをリアルな拠点で提供し、それ以外は決済を含めてすべてのプロセスをアプリやWEBブラウザで提供するスタイルです。こちらの事例は弊社のブログでもご紹介していますので、ご興味あればご参照ください。

日本初のD2C企業Fabric Tokyoの提供価値①

日本初のD2C企業Fabric Tokyoの提供価値②

ステージ④ 現在進行中の進化と試み

ここまで小売業界DXの変遷を見てきましたが、今現在も様々な変化が進行しています。最終的に何が勝ち組になるための競争の原理として成功、定着するかはまだ読めないところはありますが、先進企業が今取り組んでいる様々な施策からは多くのことが学べます。これらの最新のDXの取組みについては、DX実践道場の「米国リテール業界DX最新事情 事例編」などをご参照ください。きっと、皆様がこれから取り組むべきDX戦略の具体イメージにつながることと思います。

小売業のDXが実現していること

小売業のDXは従来やむをえないと考えられていた消費者の購買および消費に関わるストレスを完全になくすことに加えて、デジタル技術を用いてそれぞれの企業の企業理念により近い価値を提供しています。従来のリアル商品だけでは、企業理念とギャップがあったものの、あらためてデジタルサービスでリアル商品を包含することによって、消費者にとって、より大事な価値を提供することを実現しています。以下にD2C企業の企業理念を並べてみました。デジタル提供価値によって、各企業が「ありたい姿」に大きく近づいている。そんな気がしませんか。

D2C企業の企業理念の提供価値

日本の小売業の勝ちパターン

冒頭に書きましたように、小売業がDXで実行するべきポイントはある程度パターン化しています。日本は市場がまだアナログ寄りな国であるため、他の国の小売業の方が先進的なイメージはありますが、これから取り組むことができる余地がたくさんあると思います。

まして、顧客体験を最適に設計することにおいては、日本人の右に出る人種はいないと思っています。日本には「おもてなし」の精神があるからです。従来アナログなプロセスで顧客体験を最適に設計することを得意としていた日本人ですから、デジタルあるいはデジタルとリアルが融合したプロセスでも、そのような顧客体験を最適化するスキルを発揮できるのではないかと思います。

顧客体験の開発競争が進んでいる

最適な顧客体験を提供することが、競争の原理となり、勝ち残るための要素である以上、日本の小売業、D2Cが未来につながる価値を創出するチャンスがいま目前にあると私は考えます。もちろん、組織文化や組織行動の変化は容易ではありません。しかし、その組織が誰にどのような価値を提供することができるかの構想が深まれば、おのずと組織変革は加速するのではないでしょうか。まずは自社の未来の提供価値を描くところから始めましょう。日本の小売業にエールを送りたいと思います。

本コンテンツは、DX実践道場の以下の3講座のエッセンスを要約したものです。詳細はDX実践道場をご参照ください。

  • B2CにおけるDX戦略 ー小売流通業やD2C事例から学ぶ- (講師:荒瀬光宏)

  • 米国リテール業界DX最新事情 概要編(講師:金澤一央)

  • 米国リテール業界DX最新事情 事例編(講師:金澤一央)


上記内容について、ご質問、ご相談、ご指摘などありましたら、遠慮なく弊社にご連絡いただければ幸いです。

(荒瀬光宏)


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