ウクライナのデジタル競争力に学ぶ

 

ロシアとデジタル技術をフル活用して戦うウクライナ

 ロシアの侵攻に対して、善戦するウクライナの強みはそのデジタル技術の高さにあるとも言われています。

 DX大臣ミハイル・フェドロフ氏は31歳と若く、DX大臣と副大臣は、開戦翌日には情報を集約するサイトを立ち上げ、民間のドローンを大量に集めて情報戦に備えたほか、ロシアをサイバー攻撃するためのIT軍と呼ばれる市民軍やハッカーチームを立ち上げインターネット防衛を始めました。さらに、ミハイル氏はデジタルマーケティングのスタートアップのCEOを務めた経験を活かし、開戦3日以内に、米国のテック企業にロシアとの関係断絶を迫る公開キャンペーンを開始しました。また、ロシアとの戦争を描いたアート作品をNFT(非代替性トークン)で販売開始をし、軍費を稼ぐ方の仕事もしています。

 デジタル技術はスキルを持つだけでなく、このように機動力を発揮することが重要であり、機動力を阻害する法律や仕組みがある場合は、事前に取り除いておくことが必要です。また、様々な事態を想定してあらかじめ、準備をしておくことも重要です。

 日本でも、そのレベルのアクションがとれる方が、デジタル関連の責任者としてアサインされているかどうか、気になるところです。

参考)「ウクライナ政府 NFTで認証のデジタルアートを販売 支援募る」NHK 4月1日


ウクライナのデジタル競争力

ウクライナのデジタル競争力とは

 ウクライナのデジタル競争力総合ランキングは、世界64か国中54位。何かの間違いではないのかと思わせるほどのランクの低さです。日本は28位ですが、中身は圧倒的にウクライナの方が上です。 このデジタル競争力ランキングは、オランダのIMDが毎年調査し発表しているものですが、様々なデジタルインフラなどが採点対象となっており、全部が上位でないと高いランクにならないという仕組みが、この順位に影響しています。

 調査の各項目を見ると、ウクライナは通信への投資と子どもたちへのデジタル教育では世界先進です。有事があっても奪うことはでない子供たちの教育、そして重要な通信インフラには、特に投資を割いてきていることがわかります。

 教育については、義務教育の時点から徹底的にデジタル技術を学ばせ、大学では即戦力となる実務的な教育をしており、社会人になったと同時に活躍できるデジタル人材を徹底的に排出しているようです。

 通信インフラについては、やはり有事の際を意識して、地上の通信インフラが破壊されても、衛星通信で常にコミュニケーションをとれるように投資をし、備えていたそうです。


ウクライナのIT企業

リモートワークで業務をつづけるウクライナの企業のイメージ

今朝のNHKラジオニュースで、ウクライナのリビウの150人くらいのIT企業を取材した内容を報道していました。

 自宅を失った社員は会議室に寝泊まりするなどしながら、業務を続けています。空襲警報が鳴るたびに、地下シェルターに避難し、WIFIで仕事を続けているそうです。

 また、国外に出国できる社員は、国外からリモートワークで仕事をすることにより、業務リスクの分散をしているそうです。日本には、リモートワークがいまだに実現できない企業も多いのが現状です。


ウクライナでの決済

 クレジットカードも使わず顔認証だけで暗号資産(仮想通貨)で決済できる仕組みが出来上がっているそうです。市民は自身の資産を暗号資産で所有し、ショッピングセンターや市場でキャッシュが必要な場では、暗号通貨と現金を交換できるATMがあり、必要なだけのキャッシュを好きな通貨で引き出して買い物をするようです。これを実現するには、かなりのセキュリティが必要ですので、そこについては高い技術が奏功していると言えます。

 キャッシュは有事の際に奪われかねないので、すべて暗号資産で資産を持つというところはウクライナらしく、同様にロシアの脅威を意識しているエストニアなどと共通していると思います。


ウクライナの行政手続き

 2年前からリーアと呼ばれるスマートフォンのアプリですべて手続き可能となっています。住民票や住民登録などの行政手続きや、ゼレンスキー大統領の言う国民投票などについても、すべてのスマホで可能となっているそうです。


ウクライナがデジタルに強い背景

 もともと、ソ連時代から、ロケット工場があるなど、技術力や理系のスキルのある人が集まっていた地域だったそうです。特に、8年前のクリミア併合を受けて、デジタル教育により教育を入れはじめたそうです。

 この内容を報道していたNHKラジオニュースでは、「なぜこんなにウクライナはデジタルに強いのでしょうか」と言っていましたが、エストニアやリトアニアについても、以前、「なぜこんなにエストニアはデジタルに強いのでしょうか」などという言葉を聞いた気がします。いずれ「なぜこんなに日本以外のすべての国はデジタルに強いのでしょうか」という問いを立てることになりかねません。

 まずは「日本がデジタルに強くなることを阻害している原因は何でしょうか」という問いに変える必要があります。


日本がデジタルに強くなることを阻害する要因

デジタル後進国のイメージ

 デジタル変革にはトップのリーダーシップが必要ですが、日本の行政も企業もトップが高齢化してデジタルを苦手としていることがほとんどです。デジタルであらゆる業務や事業を再構築しなければならないにも関わらず、そのリーダーシップをとれる立場にある人がデジタルを苦手としていてはいけません。

 結果的に、デジタル競争力の低下が経済力の低下につながり、この国は軍事力を増強することも、未来に投資することも、国内産業を維持することもできなくなります。そうなる前に、動かなければならないのは、行政や企業のトップです。

 もし、トップの方々がデジタルを苦手としているなら、学べばよいのです。経営者向け、首長向けDX研修を受けてください。もし、学ぶ気がないのなら、若手に道を譲ることがこの国の将来のために必要です。

 何度も申し上げていますが、日本の組織トップがデジタルに弱いマクロ視点最大の要因は、高齢化先進国であり、トップが高齢化していることです。この構造的な問題を解決しない限り、日本の国力は落ちる一方です。


組織トップを若返らせる方法

 企業においては、株主の圧力です。トップ自らデジタル戦略やDXビジョンを立案し、株主にプレゼンできるかどうかを、経営者の資質として見ると良いでしょう。株主のみならず、これからその会社に長く働く意志のある社員を代表する労働組合の視点なども有効かもしれません。

 行政においては、有権者です。日本問題は有権者も少子高齢化していることです。そのため、これから何年日本で生活することが予想されるかを票の重みづけにし、若者により重たい投票権を持たせたり、子供の数だけ親が投票権を持つドメイン選挙を採用したり、スマホで出来るオンライン投票を開始するなど、有権者がデジタルに強い人にシフトするための施策をとる必要があります。どれだけデジタルを活用しても、一人も取り残さない行政は可能です。省力化した職員の工数を取り残される恐れのある市民のサポートに振り向けさえすればよいのですから。有権者がデジタルに強くなった瞬間、デジタルに弱い候補者は当選できなくなり、国政全体がデジタルに強い体制にかわるのです。

 デジタルに強い国になることを阻害する要因を解決することの阻害要因は、このような投票制度に変えると、現在の国会議員のほとんどは職を失うことが予想されるため、誰も立法したがらないことです。これを解決するには・・・政権転覆くらいの維新が必要です。この解決策も是非考えていきたいと思います。ウクライナのことを書いていたつもりが、今日も日本の話になってしまいました。

(荒瀬光宏)

 

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