DXのビジョンは経営者主導で策定せよ

 よくDXのリーダーを任された方が、「弊社はDXが目的になっていて、DXで何を実現するかが決まっていないんですよね」と言う話を耳にします。こういった話をされる方々は、DXについて日夜考えていらっしゃるものの、事業や経営について采配をふれる立場にいらっしゃらないことが多いかと思われます。つまり、日本では「当社もDXやらないといけないので、お前がやれ」というアサインメントだけ実施し、自身が主体的に深堀して考えたり、牽引して行ったりしない経営者や事業責任者があまりにも多いようです。

 今の時代の経営者にとって、従来の環境の変化とまったく異なる非連続的な変化を迎えるという覚悟で、起業するかのように、これからの企業や組織の在り方、顧客価値提供の仕組を真剣に考えることこそ、最大の仕事と言っても過言ではありません。その仕組みの実現のためにDXを行うわけですから、 ビジョンなくしてDXはありません。仮にDXリーダーがビジョンを思いめぐらせて施策を打ったところで、合戦の戦略が決まっていないのにとりあえず土濠を掘ってみているようなもので、体系的な戦略がなければ何の意味もなさないことは想像できるかと思います。結果的に、経営者や事業責任者が顧客価値提供の仕組を変えることに踏み出さない限り、DXリーダーの想いは組織全体のビジョンとはなりえません。

 DXという言葉が物珍しかったころは、本当にDXを理解して先導する経営者のいる会社だけがDX を実行していたのですが、今は流行り的にDX を進め、DXの本質を学ばないまま丸投げをする経営者があまりにも多すぎると思います。

DXの号令をかける経営者 ©

DXの号令をかける経営者 ©株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所

 経営者が自分事として真剣にDXのビジョン策定に取り組んでもらうために、自分は何をするべきだろうかとDXリーダーに聞かれることがよくありますが、 選択肢は決して多くはありません。ただ、あらゆる手を使うことには意味があります。是非参考にしてください。

1)正面突破

 経営者、事業責任者に環境の変化や市場環境について時間をとってもらい、ご自身で説得するか専門家(弊社やコンサルタントなど)に説明してもらうかです。いずれにせよ貴重な時間ですので、しっかり準備し、経営者が理解、納得できる論理を組み立てることが重要です。

 説明のストーリーとしては、夢(ビジョン)を語る、悪夢(ホラーストーリー)を語るなど、様々なものがありますが、従来の短期的な経営指標であるKPIなどを使わず、5年後、10年後の自社の姿という未来観点でどのように企業価値を維持し高めるかという観点で議論したほうがよいように思います。短期的なKPIで議論すると、今のビジネスをそのまま続けるのが一番投資対効果が高いということになりかねないからです。

2)外部圧力

 社内の声には耳を貸さないというワンマン経営者の場合は、その方がだれの声であれば傾聴するかを考え、必要に応じて外部のステークホルダーを利用します。株主、顧客、取引先などがこのステークホルダーにあたります。株主会議や顧客から問われれば、経営者にとっても考える機会が生まれます。ただ、外部の方に答えるだけであれば表面的なビジョンでもその場をしのげる可能性がありますので、ビジョンを具体的な構想に深化させていく枠組みは社内に設置する必要はありそうです。

3)下剋上

 環境の変化に関心を持たない、デジタルが苦手なので避けて通ろうとするなどの経営者の場合は、最終的手段として首をすげ替える方法があります。役員の過半がデジタル変革の必要性を感じているならば、役員会を味方につける方法もありますが、このようなことはあまり聞いたことがありません。他に可能性は低いかもしれませんが、親会社、大株主を使う方法の他、投資家を味方につけてM&Aにより経営権を取るという手法があります。

 以上どれもうまくいかない場合、企業価値を未来に引き継ぐことが難しくなる可能性すらありますので、DXリーダーの方ご自身が、ポジションや会社を捨てる行動をとることも必要かもしれません。逆にそのような行動をとったことで、経営者が真剣に考え始めてくれることもあるやもしれません。

 他にもよい成功事例をご存じの方、いらっしゃいましたら、是非おしえてください。

(荒瀬光宏)

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