「より良い生活」のための自治体DXを vol. 02

当社は2021年12月に、自治体DX調査報告書を公表した。日本経済新聞に掲載されたこともあり、当社ホームページへのアクセス数や問い合わせ数も急増した。また各種SNS等でも、「自治体DX」に関連する投稿も徐々に増えつつあり、世の中的にもその必要性について声を上げられている。他方、各自治体においても「DX戦略」が策定されていたり、中央省庁においてもデジタル庁、総務省、経済産業省などを中心として関連した政策が行われている。さらに岸田内閣総理大臣の年頭所感でも「デジタル化」を成長のエンジンにする旨が述べられた。

政治と行政、自治体、民間企業、学術機関、市民団体、そして国民一人一人で共創して、より良い社会の実現に向けて取り組みをしていかなければなりません。岸田政権では、デジタル田園都市国家構想として、社会のDXと地方創生の実現を目指している。これらの実行していく際にも、やはり自治体のDXは必要不可欠であり、当社が公表した本報告書もその大きな流れに寄与できれば幸いだ。

自治体DX調査報告書

今後、数回に分けて自治体DX調査報告書を実施するに至った背景と、その分析結果などをご紹介したい。


前回で述べた通り、本報告書の役割は以下の通りである。

  1. 「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」(2020年12月総務省公表)の進捗確認を行うこと

  2. 社会全体のDXを推進していくことを上位目標して、民間セクターとの比較を行うこと

  3. 具体的なステップを検討していく材料とすること

今回は、アンケート調査の概要と上記の役割それぞれの重要な観点を示してみたい。


アンケート調査の概要

本調査は、2021年7月から9月にかけて、全自治体(1788団体、47都道府県、792市、743町、183村、23特別区)を対象として実施した。有効回収数は280件(7都道府県、273市区町村)であり、有効回収率は15.66%であった。なお、調査項目は以下の通りである。

それぞれの設問に対して、現在値と3年度のに関して、目標値レベル0から5までの6段階で評価を頂いた。その成熟度レベルに関する特性は以下の通りである。なお、この成熟度レベルの考え方は、民間セクターとの比較を行うため、経済産業省によるDX推進指標の考え方を用いている。

分析の観点、比較対象としては、以下の通り整理される。

  1. 自治体DX推進計画の進捗

    • 推進計画のうち「DXの推進体制の構築」「国の重点取組事項」に挙げられた10項目について上記の成熟度で回答

    • それぞれの現在値と目標値の平均を算出

    • カテゴリ毎の平均の散布図を作成

  2. 民間企業との比較

    • 経済産業省・IPAが実施、公表した「DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート(2020 年版)」と比較

    • それぞれの現在値と目標値の平均を算出

    • 民間企業との差分を算出

    • カテゴリ毎の平均の散布図を作成

    • 層別分析(自治体区分別、先行自治体とその他自治体、類似団体区分別、回答部署別)を実施

  3. 具体的なステップの検討他

    • 各種指標(平均年齢、人口、人口増減率、財政指数)との相関分析を実施

    • 当社が策定したDX推進に関する5つの壁に関して先行自治体とその他自治体の有意差を確認


分析結果の概要

自治体DX推進計画の進捗

  • 成熟度は0.91と「一部での散発的実施」未満であった

  • セキュリティ対策の徹底は「一部での戦略的実施」がなされているものの、デジタル人材の確保・育成ではほとんどの自治体で「未着手」であった

  • 外部人材CIO補佐官を設置している自治体は対象全体の6.43%となり、対象全体の93.57%がCIO補佐官を設置していない

  • 行政手続きのオンライン化に向けた指針がある自治体は対象全体の21.07%となり、全体の78.21%が指針を設けていない

民間企業との比較

  • 自治体は民間企業と比較し、DXの成熟度が低い
    自治体は民間企業のDX成熟度と比較して、半分以下の成熟度となった。また民間企業では成熟度1「未着手」以上が、7割ほどであるのに対し、自治体では2割ほどである。つまり自治体では8割ほどが「未着手」の状況である

  • 自治体の3年度の目標設定は大きなばらつきがある
    3年後の目標設定において積極的な回答をした自治体と消極的な回答をした自治体などばらつきがあった。なお、総務省では「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を2020年12月に公表している。国が主導的に役割を果たしつつ、自治体全体として足並みを揃えて取り組んでいく必要があり、重点的に取り組むべき事項・内容の具体化を本計画で盛り込んでいる

  • 先行自治体とその他自治体では「トップのコミットメント」の成熟度に最も大きな差がある
    先行自治体とその他自治体で各設問の現在値での差を比較し、差分が上位と下位の5設問を分析すると、ばらつきが大きいことを示す上位5位は「トップのコミットメント」、「持続力」、「事業への落とし込み」、「ビジョンの共有」、「推進体制」である。特に「トップのコミットメント」では、先行自治体で2.40なのに対し、その他自治体では0.31と特筆して差が広がっている

  • 「プライバシー、データのセキュリティ」の成熟度が最も高く、人材に関する設問は総じて低い

  • 自治体の区分別では、都道府県が総じて成熟度が高く、基礎自治体は低い

  • 回答部署別では、DX系部署がある自治体が総じて成熟度が高く、情報系部署、企画・総務系部署の順で成熟度が低下する

  • 都道府県では人材に関する設問で積極的な目標を設定しているのに対し、基礎自治体はビジョンや必要性の共有などに積極的な目標を設定している

  • IPAでは、民間企業の先行事例を現在の成熟度を3「全体戦略に基づく部門横断的推進」以上としていたが、それに合致する自治体は存在しない(そのため本報告書では成熟度1.5を閾値として先行自治体を定義した)

  • 先行自治体でも人材の融合や確保、非競争領域の標準化・共通化に関する取組が進められていない


「より良い生活」のための自治体DXを推進させるために

本調査を受けて、自治体DXを推進していくために、必要な観点の整理を行うことができた。以下の通りである。

阻害要因の認知

前回にも述べた通り、自治体DXに関する取り組みは幾度となく実施されてきた。しかし、民間企業と比較しその成熟度は半分以下となっている。その背景にある要因はどこにあるのかを正確に認知する必要がある。

各ステークホルダーの役割分担と責任

公共分野においては、政治、行政、国民などさまざまなセクターが複雑に絡まり合い、作用し合っている。そのために変革に際して、検討すべき事項や関係者が多い。どの範囲をどのセクターが担い、責任を持つのかトップダウンで明確化する必要がある。

民間セクターとの共創

市場原理の働いている市場においては、より良いものが提供され続ける。彼らのノウハウや技術を生かし、公共セクターの新たな価値を創造していくことが必要である。

国民の理解

公共サービスは国民に提供されるが、一方でその運営や管理、意思決定も主権者たる国民が行っている。民主主義の基本に則り、自治体DXが推進されていくためには、何よりも国民の理解が必要である。


これらを踏まえ、「より良い生活」のための自治体DXは、行政や自治体のあり方を変革させる、大きなうねりであることを再認識することができた。

(白石陸)

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