DX人材とデジタル人材を混同していませんか

加熱するデジタル人材の獲得競争

 一般事業会社では、DXのニーズの高まりにあわせて、デジタル人材の採用の必要性が高まっています。このような際に、DX人材という言葉が使われる場合もあります。ほぼすべての組織において、デジタル人材という言葉をDX人材に置き換えても支障なく、DX人材という言葉をデジタル人材に置き換えても支障ないというケースが多いように思います。

 では、デジタル人材とDX人材は同じ意味なのでしょうか。そもそも、DXを進める組織になぜこれらの人材が必要かという点から、かん考えてみましょう。

事業会社でデジタル人材が必要な背景

 DXに取り組む事業会社の今現在の課題は、競争力の高い新しい価値を創造(イノベーション)する際に、従来通り、システムの設計も開発も外注していたのでは、スピードを発揮できず、競争に打ち勝てない点にあります。つまり、自社の価値を高めるための戦略的なデジタルサービスを開発する部隊が必要で、その開発手法としては、従来のIT部門の仕事の進め方と異なり、顧客や市場の要件を確認しながら柔軟にビジネスのデザインを変更していくアジャイル型開発が必須となります。従来のIT部門とは、仕事の進め方が極端に異なるため、新規チームを組成し、外部から人材を獲得することが増えています。

 では、デジタル人材はどこから来るのでしょうか。日本はIT業界がIT人材を保有し、事業会社は自社であまりIT人材を保有せず、ITを外注してきた縦割り型産業構造になっています。そのため、事業会社が採用するデジタル人材は、多くの場合、IT業界に所属するIT人材です。これらのIT人材が、本質的なスキルは変わらないまま、人材紹介会社の商品としてデジタル人材と名称を変えられ、かつ新天地でよりビジネス寄り、価値創造型の仕事の進め方に切り替えることから、デジタル人材となっていくわけです。極端な話としては、「うちにはデジタル人材がいない」と考える企業が外部からデジタル人材を獲得する一方、その会社のIT部門のエンジニアが他社に「デジタル人材」として転職していく場合もありえるのではないでしょうか。

 IT人材とデジタル人材は、その働き方や特性が異なるものの、ITについての素養が求められるという点では共通点が多いかと思います。

 その他に、デジタル人材がITエンジニアリングの知見を多く持たず、デジタル的素養だけを持ち、要件の整理や戦略立案などの現場に近いデジタル支援や橋渡しだけを実施する場合もあるかと思います。

事業会社でDX人材が必要な背景

 では、あらためてDX人材とは何でしょうか。

 DXに取り組む事業会社にとって、DX最大の難所は、組織行動の変革です。つまり、新しい価値を創造する組織に変え、新しい価値を支える組織行動にするために、これまで構築してきた多くのマネジメント、ガバナンスの要素を変える必要がある点です。

図1 組織行動を変えるための要素

出典 拙書 「1冊目に読みたいDXの教科書(SBクリエイティブ)P25

 これらの変革には、トップのリーダーシップが欠かせないものの、同時にこれらの変革を主導できるDX人材が必要です。DXはデジタル変革ですから、DX人材は、デジタル変革を実行する人材ということになります。DX人材は、CDO(Chief Digital Officer)やDX推進部門で求められる人材となります。

 では、デジタル変革を実行する人材には、どのようなスキルが求められるのでしょうか。

DX人材に求められるスキル

 DX人材は、DXが目指すあるべき姿を設計できるだけでなく、組織の現状を理解した上で、どのような変革をすれば、あるべき姿に到達できるかを設計できなければなりません。つまりアナログな環境で作られた現状の事業や組織の構造を理解し、人の行動変容を促し、課題ををコミュニケーションを通じて発見し、対策を打つことが求められます。結果的にどのようなマネジメントやガバナンスが必要か、さらに、いかに過渡期のひずみを最少化して、成功的に変革を進められるかという泥臭い取り組みが求められます。ここで求められるスキルは組織全体とのコミュニケーションであり、人を動かす巻き込み型のスキルです。つまり、アナログスキルが求められるのです。もちろん、あるべき姿を正しく構想するためにデジタルスキルも必要であることは間違いありません。その一方、組織を管理するマネジメントやガバナンスを見直すためのリーダー的な役割も求められますので、現状のマネジメントや最新のマネジメント手法についても精通している必要があります。そのため、DX人材に求められるスキルは、DXを成功に導くためのマネジメントスキル、デジタルスキル、アナログスキルとなります。

DX人材に必要なスキル

 つまりデジタル人材であっても、アナログ環境下の人々の行動を理解し、巻き込み型のコミュニケーションができるスキルがなければ、DX人材にはなりえませんし、組織がどのような管理によって成り立っているかというマネジメントについて、あるいはDXという変革プロジェクトをどのようにプロジェクトマネジメント(PM)するかというスキルがなければ、DX人材として成功を収めることはできません。

 以上のことにより、DX人材は、デジタル人材より高いスキルセットが求められることがわかります。ぜひ、組織内で人材採用やスキルについて話す際に、デジタル人材とは何か、DX人材とは何かといった点について共通理解を持ち、DXプロジェクトを進めていただきたいと思います。

 私たちは日本のすべての組織のDXを直接ご支援することはできませんが、日本のすべての組織のDXの成功を祈念しております。

 
 

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